イラク情勢Watch vol.71 09年1月31 日

         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲


     現地写真リポート・パレスチナ自治区ガザ



 普段はイラク情勢についての情報の掲載している当コーナーだが、パレスチナ情勢への市民の関心の高さに加え、現在、編集者がガザ地区に取材に入っているため、今回は特別にガザの写真リポートとさせていただく。

 当コーナー編集者はエジプト北東部ラファの国境からガザ入りした。イスラエル側から入ることも可能だが、制限が厳しく、遠回りになるがエジプト・カイロから陸路で国境まで行き、ラファ検問所から入る方が容易だと見たからである。ただ、ラファ検問所でもスムーズにガザ入りできるわけではなく、大使館からの手紙を持っているにも関わらず、門前払いされる人道支援関係者も少なくなかった。検問所の裁量は良くも悪くもいい加減で、一度ガザ入りを拒否されても次の日に許可されることもある。

ガザ地区とエジプトの境界に集まる人道支援関係者


民間人に多くの犠牲者―女性や子どもも


 イスラエル軍による攻撃の死者は、昨年12月27日から、1月19日の間で、約1,314人。うち412人が子ども、110人が成人女性で、負傷者5,300人、うち1,855人が子ども、795人が成人女性だという(NGO・パレスチナ子どものキャンペーン調べ)。

 編集者も、ガザ市中心のシファ病院を訪れたが、空爆の被害者の証言からは、一般住宅や国連関係の施設に対しても、情け容赦のない猛攻撃が行われたことが伺いしれた。犠牲者の中には、白旗を掲げ、イスラエル軍も相手が丸腰であることを視認しているのにも関わらず攻撃された例や、負傷した身内を病院に連れて行こうとして攻撃された例なども少なくない。医療関係者も攻撃を受けるなど、イスラエル軍の行動は、ジュネーブ条約に反するものとして、強く批難されるべきものである。






写真の女性は空爆で左足を失った。



大量に使用された非人道兵器白リン弾 

 今回のイスラエル軍の攻撃で特筆するべきは、非人道兵器として、その使用が批難される白リン弾が大量に使用された疑いが濃厚なことだ。白リン弾については、当コーナーでも以前扱ったことがあるが、リン(燐)の化学反応を使った兵器で、一種の焼夷弾だといえる。

シファ病院の敷地内に設けられた戦争被害展。白リン弾の残骸が展示されている。

 白リン弾の悪質さは、リンの破片が、少しでも体に触れようものなら、そこから皮膚を焼き骨にまで達する大やけどを負うことだろう。シファ病院の医師はこう証言する。「最初、小さな傷だったので処置をして、患者を帰したら、数時間後、戻ってきた患者の患部は大きく焼けただれ、患者は死にかけていた。患部にめり込んだ白リン弾の破片が患者の体を焼き続けていたのだ」。


白リン弾の被害者の一人

 各地の住民の証言からは、白リン弾が一般住宅に対しても積極的に使われたことが伺える。最もショッキングな事例としては、国連が運営する学校に避難した人々に対し使用されたことだ。そこが国連の施設であることも、そこにいる人々も避難民であるにもかかわらず、白リン弾を使用したことは、許しがたい行為である。

国連の援助物資も白リン弾で焼かれた。


あちこちに白リン弾の破片は落ちていて、摩擦や衝撃を加えると再び発火する。



破壊された住宅、行き場を失う人々


 今回の攻撃で深刻なのは、住宅の破壊だ。前出のパレスチナ子どものキャンペーンによれば、全壊4,000棟、半壊17,000棟。また国連(UNRWA)の調査によれば、約3万5000人が避難生活を送っているという。だが、主な避難場所となっている学校等の施設の運営が再開されるため、避難民は移動を余儀なくされている。また、避難場所の不足から、家族がバラバラに避難生活を送らざるを得ないケースも少なくない。


スポーツセンターで避難生活中の子ども達

 一方、半壊のケースでは、住民がその場に留まっていることも多いが、水道や電気などの設備が破壊され、壁や屋根にも大きな穴が開いているため、夜間の寒さに住民達は凍えている。ドアやタンス、テーブルなど壊れた木製の家具を薪にして、辛うじてしのいでいるという状況だ。


破壊された家を指差す少女。

 また、物理的な被害だけでなく、精神的な被害も深刻である。不眠や食欲減退、無気力化など、メンタルな問題を訴える避難民も多い。編集者の取材でも、ある母親は彼女の3歳の娘が「もう6日間もろくに食べず、ぐったりと寝てばかりいる」と心配していた。食料や水、仮設住宅などの支援は勿論、カウンセラーの派遣など、精神面での支援の必要性を強く感じた。


家畜も殺された。



停戦は守られるのか?

 今月19日に停戦が発効したものの、その後も散発的な戦闘や空爆・砲撃などが続いている。日本のメディアでは「現地武装勢力が先に攻撃し、イスラエル軍が報復する」という報道がパターン化しているが、海岸近くでは連日のようにイスラエル艦隊から砲撃が行われ、漁師が被害者となることもある。

空に浮かぶ飛行機雲。停戦中とはいえ、イスラエル軍の攻撃機が上空を飛び回っている。

 また、27日の中部ハンユニスへの空爆についてイスラエル側は「ハマスの治安要員を狙った」としているが、現場は学校や病院の目の前であり、登校中だった子ども6人が負傷した。

27日の空爆で負傷した少年

 これらの状況にもかかわらず、停戦協議では、パレスチナ側のロケット攻撃などが焦点とされがちだ。確かに停戦中である以上、パレスチナの武装勢力は、イスラエル軍への攻撃を停止するべきだが、自分も攻撃しておきながら、パレスチナ側からの攻撃を受けると「我々は被害者であり、攻撃に対しては報復する」という様なイスラエル側の主張は認められるべきではない。まずは停戦が第一だが、それにとどまらず、ジュネーブ条約などないかの様なイスラエル軍の暴挙の数々について国際社会が責任を追及することが、今回の様な惨劇を繰り返さないために必要なのであろう。


破壊されt赤新月の救急車








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